元医療事務員が医療事務員と病院の内情を少しだけ語る
人気ブロガー・フミコフミオ氏。はてなブログ新参者の私でも存じており購読もさせて頂いている氏のブログに、こんな記事が載せられています。
内容を要約すると「フミコフミオ氏が行った病院の事務員が最悪だった上に女医に誤診された」というもの。皮肉たっぷりなタイトル含め、ただただ耳が痛い。いや、聞いたのではなく読んだので、正確には目が痛い。私と登場する市民病院との関係性は全くの皆無なのですが、読んでいて「あぁ、本当に申し訳ないなぁ」という気持ちになりました。
何故なら私が以前勤めていた職場が地域病院という、記事内の出来事が起こった舞台と(恐らく)似たような病院だったからです。そして、私は医療事務員でした。フミコフミオ氏並びに曲っちゃいけない方向に足の曲った男性に「お電話入れましたかっ!」と声を荒げた女性と、ほぼ同じ立場です。多分。
元医療事務員として言わせて頂くと、申し訳ない気持ちが反面。別段珍しい話ではないなというのが反面です。女医の誤診は如何なものかと思いますが、その誤診含めて全部マルっとよくある話なのです。
今回は「医療事務員と病院の内情」を、実際に勤めていた病院を元にお話ししたいと思います。
※この記事は、医療事務員及び病院を擁護する気持ちから書かれたものではありません。そして、非難する気持ちから書かれたものでもありません。こんな病院もあって、事務員の一部はこんな感じで働いてるよーという紹介文です。
実際に勤めていた病院のスペック
話を進める前に、まずは私が勤めていた病院の基本情報を。
- 都内にある地域支援病院
- 一般病床数200床以上500床未満
- 二次救急医療機関
各項を簡単に解説しますと、
地域支援病院とは
周辺地域の診療所やクリニックでは面倒を見切れない患者を受け入れる病院です。
「面倒を見切れない」というと非常に響きが悪いのですが、決して「匙を投げた」という意味ではありません。専門的な知識・技術を要する処置が必要な時、または専門的な検査が必要な時に利用する病院です。
身近な例を挙げると……
- 親知らずを抜歯するけど、かかりつけの歯科医院では設備が整ってないから地域支援病院で抜いてもらう。
- 検査でCTを取る必要があるけど、ちっちゃな診療所には機械がないから撮影だけ地域支援病院に頼る。
とか。他にも色々な役割を果たしていますが割愛します。
地域支援病院は、診療所側が「ちょっとお宅で診てくれませんかねぇ?」と伺いを立ててから患者が足を運ぶ病院です。患者は病院に行く前に「この人は◯年◯月◯日からウチの診療所に通ってて、症状から△△なんじゃないかなーと思ってるよ! そっちでも診て感想聞かせてよ!」などの内容が書かれた『紹介状』を診療所から渡されるのですが、この『紹介状』がないと基本的に診てもらえません*1。
一般病床数200床以上500床未満とは
入院患者を受け入れるベッドが200個以上500個未満あるよ! ということです。つまり、それなりにデカい病院。
このベッド数によって、私達が病院側に支払うお値段が変わってきます。
二次救急医療機関とは
自分達が進行形で診ている患者以外に、比較的軽度な怪我・症状の患者を緊急で受け入れる医療機関ということです。
『比較的軽度』のレベルが難しい部分なのですが……極端な話、交通事故にあった時に
- 一刻を争う状態。今すぐ病院に搬送しないとヤバい、命の危機!=一次救急医療機関
- 頭打ったけど意識はある。むち打ち。足の骨折れたっぽい。=二次救急医療機関
という感じです。なので、もしも二次救急医療機関の目の前で事故にあって、首の骨が曲がっちゃいけない方向に曲がっていても、遠くの一次救急医療機関に搬送される場合があります。目の前にデカい病院があるのに。つっらー。辛すぎます。
※フミコフミオ氏が実際に行った市民病院が、上記と同規模の病院かは分かりません。もしかしたら、もっと大きいかもしれないです。
医療事務員の内情
規模の大きな病院で、同じ制服を身につけている事務員の大半が派遣社員です。中には契約社員の人もいますが、初診・会計・外来・入院の受付にいる事務員の99%は派遣会社に籍を置いている人だと思ってください。そして、その人たちの約半分はパート社員です。
「全ての事務員が」とは言いませんが(『全て』と言うと過去の自分も該当してしまうので)、多くの医療事務員は「自分は医療機関で働いている人間で、患者様はお客様です」という意識+責任は限りなく薄いです。
どの医療事務員も、勤め始めた時は意識が高いです。裏を返せば、勤め始めの時だけです。その後は、決められたルールも守られていないのが現状です。特に接遇関係は酷い。私は指導する立場にいたので、ハッキリ言えます。 実際の医療事務員の態度は最悪。全員とは言わないけど。
更に申し上げると、医療事務員は非常にマニュアル人間です。というか、基本的にマニュアル内でしか動けない人間です。『紹介状』や予約なしに訪れるイレギュラーな患者や、体調が頗る悪そうな患者に対して、『臨機応変な対応を』という言葉は脳内の辞書にないのです。そして、そのマニュアルを完全には理解していない人も絶対的に存在しています。恐ろしいことですが、現実です*2。
病院の内情
フミコフミオ氏が病院を訪れたのは日曜日だったみたいなので、日曜の病院の話をしましょう。
基本的に、土日・祝日に病院は機能していません。事務員や看護師・その他病院職員も最低限中の最低限しかいません。医院長・副医院長・看護師長さえ、タイミングが良ければ誰も出勤していない時があります。救急外来にいる医者は「その日、当直だった先生」になります。……ここで一番恐ろしいのは、当直の先生が全てを正しく診断出来ないということです。
仮にフミコフミオ氏のような成人男性が体の不調を訴えて病院を訪れた場合、大まかですが、当直の医師が外科医か内科医か小児科医で診断は変わります。平日なら他科のドクターも出勤しているので、疑問があれば「ちょっとチミ、どう思うかね?」と相談することが出来ます。しかし、土日・祝日は相談など出来ないのです。だって「その日、当直の先生」しかいないのですから。
中には、当直医が『優秀な研修医』しかいない時もあります。その場合、どのような診断が下されるのか……なかなかにゾッとしますね。
医療事務員とドクターの現実
残念ながら私は、その病院を知らないので何とも言えません。が、少しでも内情を把握、もしくは進行形で病院のお世話になっている人からすれば「まあ、あるあるだよね」な話なのです。
ドクターは知りませんが、医療事務員が来院リスト(バインダーに挟んだ紙がリストだと思われます)に乗ってない人が来院してくる事に何を思っているのか……。人によって様々です。中には「なんで『紹介状』なしに、予約も入れずに来るわけ?」と思っている人も、少なからずいます。そういう人が「お電話入れましたかっ!」と『病院で真っ先に患者と顔を合わせる人』にも関わらず、相応しくない対応を取るのです。
そして、医療事務員よりも厄介なのがドクターなのですが……これを話すと非常に話が長くなるので、今回はココも割愛します。
「地域支援病院では基本『紹介状』が必要」と上記しましたが、近年では、地域支援病以外の大きな病院でも『紹介状』は必須となっています。「患者が電話をすれば必ず診てもらえる」という常識が通用するのは、診療所やクリニックだけだと思っておいた方が良いでしょう。
また、フミコフミオ氏の様に急に具合が悪くなった時に「お電話入れましたかっ!」などと再三質問されず且つ無駄に何時間も待たされずに診察を受けるには、救急車で救急外来に搬送されるしか手はありません*3。但しその時、コチラは搬送先の病院を指定することは出来ない*4ので悪しからず。